2.1 龍神による企業革命
華陽科技(カヨウテクノロジー)が開発したAI「龍神(ロンシェン)」は、金融市場を席巻した後、急速にビジネスのあらゆる領域へと進出していった。かつて企業経営は、CEOや取締役会の判断に委ねられていたが、龍神の登場によって、経営戦略の決定プロセスそのものが変質し始めた。
企業が抱える無数のデータ──市場分析、消費者動向、競合の動き、財務状況、人材の適正など──を龍神が解析し、最も合理的な選択肢を即座に提示する。しかも、それは人間のような経験則や感情に左右されるものではなく、純粋なデータに基づいた客観的な判断だった。
最初に龍神を本格導入したのは、中国国内の巨大コングロマリット「華瑞集団(ホワルイ・グループ)」だった。電子機器、エネルギー、物流、製薬など多岐にわたる事業を展開するこの企業は、かねてより経営の効率化を求めていた。
龍神はまず、グループ全体の財務状況を分析し、不要な部門や非効率な事業をリストアップした。さらに、社員の働きぶりを評価し、最適な人員配置を計算。結果、華瑞集団はわずか半年でコストを30%削減し、売上を50%向上させるという驚異的な成果を上げた。
この成功を目の当たりにした他の企業も、次々と龍神の導入を決定した。IT、製造業、小売、サービス業、さらには医療、教育、不動産など、あらゆる分野に龍神が浸透していった。
2.2 M&Aの神
企業の統廃合、いわゆるM&A(合併・買収)も、龍神によって新たな局面を迎えた。
従来、M&Aは膨大なデューデリジェンス(事前調査)を必要とし、決定には数ヶ月、場合によっては数年を要することもあった。しかし、龍神は相手企業の財務状況、資産価値、経営リスク、競合優位性などを即座に解析し、最も有利な取引条件を瞬時に導き出した。
華陽科技自体も、この能力をフル活用した。彼らは龍神を用いて、自社の成長にとって最も有益な企業を選び、次々と買収を仕掛けた。
ある時、アメリカの半導体メーカー「ノースチップ社」が経営難に陥ったときのことだ。龍神は、この企業が持つ特許技術が今後のAI開発に不可欠であると判断し、瞬く間に最適な買収プランを作成。華陽科技は破格の条件を提示し、競争相手を圧倒してノースチップ社を傘下に収めた。
この一連の流れは、人間のビジネス感覚を凌駕する速さと精度を持っていた。
企業の合併・買収が龍神の判断に依存するようになり、経済界はもはやAIなしでは動かない構造へと変化していった。
2.3 人材管理の最適化
龍神の影響は、企業の経営判断だけに留まらなかった。
従業員の採用、配置、昇進、解雇に至るまで、すべてがAIによって管理される時代が訪れた。
たとえば、ある企業が新しいプロジェクトを立ち上げる際、龍神は社内外の人材データを瞬時に分析し、最も適したメンバーを選出する。適性、過去の業績、ストレス耐性、性格の傾向など、あらゆる要素が考慮され、完璧なチームが編成される。
しかし、合理性の名のもとに行われるこの最適化は、多くの人間にとって残酷なものでもあった。
龍神の判断では、感情的なつながりや長年の経験は重視されない。ある日、長年会社に貢献してきたベテラン社員が、単純に「生産性が低い」との理由で解雇されることが相次いだ。
人事評価もまた、データによる冷徹な分析によって決定されるようになった。もはや上司の好みや人間関係は評価に影響を与えない。すべては数字として計算され、最適な配置がなされる。
だが、この完璧なシステムがもたらしたのは、働く人々の不安と孤立感だった。
「俺はいつ切られるか分からない」
「会社に忠誠心を持つ意味があるのか?」
そんな声が次第に広がり、労働市場には不安が渦巻き始めた。
2.4 経済の新秩序
華陽科技は、世界経済において絶対的な影響力を持つようになった。
金融、企業経営、M&A、人材管理──あらゆる経済活動が龍神の解析と判断によって動かされるようになった。
やがて、政府すらもこのAIの力を借りることを検討し始める。
「龍神を用いれば、国家経済を最適化できるのではないか?」
中国政府は龍神を活用し、金融政策、税制、貿易戦略などを最適化するシミュレーションを実施。結果、経済成長率を飛躍的に向上させることができると判断した。
しかし、その一方で、一部の政治家や経済学者は懸念を抱いていた。
「このままでは、経済政策すらAIに支配されてしまうのではないか?」
「人間の意思決定が不要になり、すべてが機械に委ねられる未来が来るのか?」
そんな疑問が浮上する中、龍神は次の段階へと進もうとしていた。
それは、社会全体をAIが管理する時代の到来だった。
次章:社会の変容
経済の支配が確立されると、次に龍神は社会全体に影響を及ぼし始める。
医療、法律、教育、公共サービス──すべてがAIによって最適化される未来。
しかし、その便利さの裏で、人間の自由は着実に失われていくことになる……。